「おおおお!!これがハロルドの先祖が作ったって言うイクシフォスラーかぁぁぁ〜〜。はあ〜〜〜実物を見れる日が来るなんて〜〜!!」



機体に頬ずりしながら歓喜に叫ぶあの人は、さっきまで“頼れる兄貴”というオーラをしていた筈だった。
今はその面影すら無いが。




ああ、なんか前にもこういう光景見たなあ…


チラっとリフィルを見て、もう一度ガイに視線をやってからは溜息を吐いた。



さんどうしたですの〜?」
「どこか具合でも???」



「ううん……皆色々な人格持ってるなあって…」



ちょっとだけ、やるせなくなった。
























そのままだとイクシフォスラーを解体し始めそうな雰囲気のガイを急いで中に乗せ、ようやく出発した。



「リフィルさん、これから行く先の街には詳しいんですか?」
「え…ええ、そうね。というよりは…私の故郷と、言えば良いのかしら」


少し歯切れの悪い返事を返したリフィル。
何故かは解らなかったが、その表情は故郷に帰る者のそれとは少し違うようだ。



「えええ!?そうだったんですか!リフィルさんの…」







「前から思っていたのだけど、貴方私を呼ぶ時「さん」をつけるわね。なんだか堅いし、好きなように呼んで良いのよ」
「え…でも」
「ガイだって呼び捨てにしているでしょう?仲間なのだから、気を遣う必要は無いわ」



笑顔でリフィルにそう言われ、呼び方を改めようかと思案するが年上の女性をどう呼んで良いのかわからない。
ロイドのように誰でも呼び捨てにしたり、ジェイのように誰にでも敬称を付けていればこんな風に悩まないのだろうが。






「あら、ハロルドは呼び捨てに出来るのに私は出来ないのかしら?」
「…うっ…。じゃ、じゃあ……
リフィル。……なんか照れるな」
「ふふ」



和やかムードが流れる中、の持つ譜業の着信音が鳴った。
相手は一人しかいない、懐からソレを取り出し呼びかけに応じる。








「大佐?」

『久し振りですね。ハロルドには無事会えましたか?』



!!なんだその珍しい音機関は!!少し見せてくれ!!!」




予想通りと言うかなんと言うか、再びガイ暴走。
怪しい目をしているガイにそれをはいどうぞと渡すわけにも行かずは機体内を逃げ回る。





「ハ、ロルドには会えたっよっ!…一生に一度で充分な体験もしたし」


『それは貴重な体験をしましたね〜。で、彼女は何か言ってましたか?』


「モニュメントのある場所と発見された遺跡の場所を教えてくれた」


『…そうですか(ジェイが寄越した書状に書いてあったことを…は知らされていない?)、今現段階のメンバーで理解力が早い人は誰ですか?』


「え?(なんだそれ)…えっと今…っていっても三人しかいないから……リフィル…?」







走り回っていたはピタリと止まり視線をリフィルに送る。





「何かしら?」

「エヴァのホーリークレスト軍にジェイド大佐って人がいるんだけど、その人が話したいことがあるって」

「ジェイド……ああ、戦場の死霊使いと名高いジェイド・カーティスね」



『おや、私のことをご存知でしたか。私も貴女の事聞いていますよ。セイジ教授』

「よしてちょうだい。話があるのでしょう?」

『ええ。少し一人になって頂けますか?』

「?」



何のことやら解らないが、取り合えずジェイドの言うとおりにリフィルは別室へと移動した。
そして周りには誰もいないことを確認し、画面に向かった。




「私一人に…と言うことはに聞かれたくないことなのかしら?」

『察しが早くて助かります。あの子の検査結果を貴女は聞いていますよね?』

「……ええ」

『それをに何故、話さなかったのですか?』

「確証が無い話ですもの。過去に実例があったわけでもない、それに確定の話でもない。わざわざ不安要素を与える必要は無いわ」

『ええ、普通ならそうでしょうね。だが、あの子供にとっては確証等必要ないんです』

「――どういうこと?」







『あの子にはほんの1%でも可能性があるのならそれが現実になってしまいかねない』


「……っっ…」



『彼の道は茨の道です。必ずしも、危険と隣り合わせのね…』






リフィルの空の手に汗がつたう。

画面越しのジェイドの紅い瞳は温度を感じさせない。





『ですから、の旅を急がせないでください。偶には寄り道をすると言う事も必要なんです、特にには…』


「……了解よ」


『有難うございます。つきましては、寄って欲しいところがあるんですが』




















戻ってきたリフィルは表情を普段通りに戻し、に譜業を手渡した。



、返すわ」

「大佐、なんだって?」

「エヴァに来て欲しいそうよ。だから少し進路を変えても良いかしら?」

「あ、解った!!!それを貸してくれ〜〜〜!!!」うわっ!ちょっガイ!落ち着け、落ち着いて!!!」





再び始まったとガイの追いかけっこを見ながら、リフィルはそっと溜息を吐いた。



「…大丈夫よね。…まさか、ね」

























三大王都の一つ、エヴァ。
ついこの間まで悪政に悩まされる暗き街だったが、達がクヴァルを倒して以降ナタリアやウッドロウの手腕により明るい街へと戻っていた。




「此処がエヴァかー。くぅー音機関の匂いがするぜ」
「…ガイ…」
「此処は確か魔科学兵器に対抗して、音素(フォニム)と言うマナとは違う動力で動く機械を作り出したのよね」
「ああ、マナと違ってフォニムは大樹から生まれるわけじゃないから無限にとは行かないがそれでも性能は変わらず………」




ガイがトリップしている間にリフィルは行ってしまった。
はリフィルとガイを互いに見比べて、オロオロとしている。








!」


「っ…ナタリア!」




大きく手を振りながら歩いてくる彼女はこの国の王女。
前と変わらず明るい笑顔を浮かべてやってくる。



「大佐から貴方が来ると聞いて心待ちにしていましたの。どうですか、生まれ変わったこの街は」

「うん、明るくなった。前とは大違いだよ!」

「有難うございます。その言葉がとても嬉しいですわ」




ふと、はナタリアの傍にいる二人に気がついた。
どちらも燃える炎のような赤い髪を持っているが、随分と対照的な顔つきだった。

長髪の方はしかめっ面でそっぽを向いているが、短髪の方は笑顔でを見ている。




「ナタリア、後ろの二人は?」

「そうでしたわ。に紹介しようと思って連れてまいりましたの。私の幼馴染のアッシュとルークですわ」





「俺、ルーク!」

「……アッシュだ」



なんとも対照的な挨拶に苦笑が零れる。



「オレは。よろしくなルーク、アッシュ」



















「さあ、行きましょう」
「え、何処に?」


「大佐から貴方を軍本部へ連れてくるよう頼まれましたの。リオンやティアも待ってますわよ」
「そう言えば大佐に呼ばれてたんだっけ。リオン達も久し振りだなー」



リオンのしかめっ面を思い出せば自然と笑みがこぼれる。
早く会いたくて、足が自然と早足になっていくのが判った。






























「…そんなことが可能なのか?…だが何年かかると」

「理論上は可能ですよ。まあ時間と労力はかなり必要ですがね。これからの過程次第です」

「そうか……。そうなれば…アイツも喜ぶな」

「…おや、誰のことを思い描いてるんですか?随分柔らかな表情をしてますよ」

「!う、うるさっ!!!?」





ジェイドと話をしていたリオンは急に視界を覆われ驚いた。
勢い良く剥がして振り返れば、大成功★と笑顔のがいた。





「吃驚したー?」

「…き、貴様…何を…」


「大佐、リオンの注意惹き付けてくれてサンキュー」
「いえいえ。こちらこそ面白いものが見れましたよ」




リオンの背後が見えていたジェイドはの行動を読んで、リオンが気付かないように話を逸らした。
案の定、その策にまんまと乗ったリオンは後ろの気配に気付かなかったというわけだ。



ハイタッチを交わす二人にリオンの剣が光る。



「貴様等……
そこになおれぇぇぇ!!!



「リオンが怒ったー!」

「総員退避しますよー。お坊ちゃんがご立腹です」

「待たんかぁぁぁ!!」








リオンが落ち着くまでには十分かかった。

















「…で、この有様は?」



十分後、が来たと言う知らせを受けたティアが来てみれば肩で息をしているリオンと、ケロッとしたジェイドの姿があった。




「いやあ…ねえ。逃げ回ってたらリオンしつこくて…。なんで大佐疲れてねえの?」

「疲れてますよ?歳はとりたくないものです」

「相変らず……嘘くさいことばかり…」





ティアは溜息を吐き、二人の息が整うまで待ってやった。












「ところで、大佐。オレに何の用?」
「ああ、そうでした。コレを見てください」




ジェイドが渡したのは依頼書。しかも束。
どれにも印が押してない=つまりは未達成を意味する。




「……どゆこと?」

「ご想像する通りですが?」




笑顔を崩さないジェイド。
段々と嫌な予感がしてくる




「……え?…これ、オレがするの!?」

「はい
vv




清々しい笑顔で言い切ったジェイドには呆然とした。








「なんで!?此処にもギルドあるのにどうしてこんなに溜まる!?てか、何故にオレ!?」
「いやあこの間の騒動が治まって以来色々忙しくてですねえ。気付いたらこんなに溜まってまして。エヴァのアドリビトムだけでは裁ききれないんですよ。

 それには派遣隊員じゃないですか」

「え、そんな役割がいつの間に」

「……エルグレアのギルドは手伝えて、エヴァは出来ないと?……貴方がそんなに心の狭い方だったとは」



わざとらしく演技がかった物言いをするジェイド。
なんだかは段々自分が悪者になっていくように感じた。